エストロゲンを失ったマウスでは、筋力トレーニングがランニングより骨を守った
要点
卵巣摘出(OVX)した雌C57BL/6Jマウス64匹を、有酸素(トレッドミル走行)または筋力(はしご登り)で8週間トレーニングさせた結果、いずれの様式も座位対照群より骨芽細胞数を増やし破骨細胞密度を下げ(P<0.05)、RANKL/オステオプロテゲリン比を低下させた(P<0.001)。筋力トレーニングはさらに骨細胞密度(P<0.01)とRUNX2発現(P<0.001)が高く、筋線維横断面積(P<0.05)とIGF-1(P<0.01)・FNDC5(P<0.05)の発現も上昇した。ヒトではなく齧歯類のモデルであるため、これはヒトへの処方ではなく、ヒトで検証すべき機序の方向を示す結果だ。
最初にはっきりさせておく。この研究の対象はヒトではなくマウスだ。卵巣を摘出してエストロゲンを外科的に取り除いた雌C57BL/6Jマウス64匹を8週間トレーニングさせた実験であり、閉経女性を対象にした臨床試験ではない。したがってここから出てくるのは処方ではなく機序である。
その機序はかなり明瞭だ。卵巣摘出または偽手術を受けた個体が、座位・有酸素(トレッドミル走行)・筋力(はしご登り)の3群に分けられて8週間を過ごし、大腿骨の骨組織学・組織化学分析、骨格筋の形態、そして骨と筋の両方の遺伝子発現が測定された。
どちらの運動も骨の劣化を和らげた
走行でもはしご登りでも、OVX個体では座位対照群より骨芽細胞数が増え、破骨細胞密度が減った(P<0.05)。骨を作る側が増え、壊す側が減ったということだ。同時にRANKL/オステオプロテゲリン比が低下した(P<0.001)。この比は破骨細胞をどれだけ作るかを決めるスイッチにあたる。
つまり両方の運動がエストロゲン欠乏による骨の劣化を緩和した。ここまではヒトのデータとも方向が一致する。閉経後女性でどの強度と頻度が実際に骨密度を上げたかは、ヒト対象の根拠として閉経後の骨密度と筋力トレーニングと骨密度のトレーニング用量にまとめてある。
差はどこでついたのか
筋力トレーニング群が上回った点は具体的だ。骨細胞(オステオサイト)密度がより高く(P<0.01)、骨形成を指示する転写因子RUNX2の発現がより大きく(P<0.001)、破骨細胞形成の抑制も強かった。骨細胞は骨にかかる機械的負荷を感知して信号に変える細胞であり、負荷の大きい刺激ほどこの層が厚くなったという話は筋が通っている。
なぜ筋肉が出てくるのか
この研究で最も興味深いのは骨ではなく筋の結果だ。筋力トレーニング群だけが筋線維横断面積を有意に増加させ(P<0.05)、IGF-1(P<0.01)とFNDC5(P<0.05)の発現を上昇させた。どちらも筋が分泌して骨にまで作用する信号にあたる。
著者らが筋-骨クロストークという表現を使うのはそのためだ。このデータにおける筋力トレーニングの利点は、単に骨を強く押したという話では終わらない。大きくなった筋そのものが骨へ送る信号を増やしたという方向である。走行群ではこの筋側の上昇は見られなかった。
限界は大きく、明白だ。マウス64匹、8週間、手術で誘導したエストロゲン欠乏である。はしご登りとトレッドミル走行はヒトのスクワットやジョギングと同じものではなく、この実験は骨折リスクや骨密度といった臨床アウトカムを測っていない。この論文でヒトのトレーニング処方を変えてはいけない。この結果が正当に与えるのは、ヒト研究で繰り返し観察されてきた「筋力トレーニングのほうが骨に良い」というパターンがどの経路で生じるのかという仮説と、ヒトでもIGF-1やFNDC5のような筋由来信号を併せて測るべきだという次の課題だ。
記録にはどう残すか
骨密度はfairliftが測る値ではない。ただしこの研究が名指しした変数 — 骨にかかる機械的負荷と、それを生む筋量 — はビッグ3の記録が代理指標として追いかけている値だ。スクワットとデッドリフトの重量が3か月前より上がっているなら、大腿骨と脊椎にかかる負荷も上がっているということで、この実験で骨形成の信号を動かしたのはまさにその軸だった。
逆に、この研究が支持しない推論もはっきりさせておくほうがよい。マッスルインデックスが高いから骨が丈夫だ、という結論は出てこない。骨密度は検査でしか確認できず、特に閉経前後であればトレーニング記録ではなく骨密度検査と医師の判断が基準になるべきだ。
よくある質問
閉経後の骨には筋力トレーニングと有酸素のどちらがよいか?
この研究はヒトではなく卵巣摘出マウス64匹を8週間トレーニングさせた動物実験だ。その条件では走行もはしご登りも骨芽細胞を増やし破骨細胞を減らしたが(P<0.05)、はしご登り群が骨細胞密度(P<0.01)とRUNX2発現(P<0.001)で上回った。そのままヒトに移せる結果ではない。
RANKL/OPG比が下がったとはどういう意味か?
RANKLは破骨細胞の形成を促し、オステオプロテゲリンはそれを妨げる。両トレーニング群ともこの比が座位対照群より有意に低く(P<0.001)、骨吸収側に傾いていた均衡が傾きにくくなったことを意味する。
IGF-1とFNDC5はなぜ重要なのか?
どちらも筋で発現し骨に作用する信号にあたる。この実験では筋力トレーニング群だけが筋線維横断面積の増加(P<0.05)とともにIGF-1(P<0.01)・FNDC5(P<0.05)の発現上昇を示し、著者らはこれを筋-骨クロストークの根拠として挙げている。
この結果をそのままヒトに当てはめてよいか?
よくない。マウス64匹を対象に手術でエストロゲンを除去した8週間のモデルであり、骨折や骨密度といった臨床アウトカムを測定していない。機序の方向と、ヒトで検証すべき次の仮説を示す水準として読むのが妥当だ。
では閉経前後に骨のために何をすればよいか?
ヒト対象の根拠に従うのが正しい。閉経後女性で実際に骨密度を上げた強度と頻度はヒトを対象に研究されており、骨密度や骨折リスクの判断は検査と医師の助言が基準になる。
出典: PubMed