筋のNAD+合成酵素は不活動で下がり、レジスタンストレーニングで上がった
要点
健康なマウスに抗がん剤を投与した実験で、萎縮した筋のNAD+はシスプラチン2週で14%低く(p=0.047)、萎縮のなかった群では維持された。最も大きく動いたのはNAD+生合成酵素Nrk2で、筋量減少が進むすべての抗がん剤モデルで84~93%減少した(p < 0.001)。複数のデータセットを合わせた解析ではヒトでも同じ向きが出た — 不活動はこの酵素を下げ、レジスタンストレーニングは上げた。筋のNAD+経路は筋量が動く方向に従うということだ。
NAD+はここ数年、サプリメント市場で最もよく売れた名前の一つだ。この研究はサプリメントを試したのではなく、逆方向を見た — 筋量が減るときNAD+代謝に何が起きるかである。健康なマウスによく使われる抗がん剤レジメンを投与した。folfiriとシスプラチンを2週間、folfiriとfolfoxを5週間投与し、対照群と比べて骨格筋と肝臓のNAD+代謝物を測定した。
何が筋量減少と一緒に動いたのか?
- 筋のNAD+ — 萎縮した筋でシスプラチン2週−14%(p=0.047)、folfiri 5週−18%(p=0.069)。逆に萎縮のなかった群(folfiri 2週、folfox 5週)では維持された。
- Nrk2 — NAD+生合成酵素の中で最も敏感に反応した。シスプラチン−93%、folfiri−84%、folfox−92%で、いずれもp < 0.001だった。
- 肝臓のNAD+ — 長期投与でのみ低下した。folfiri 5週−20%(p=0.013)、folfox 5週−15%(p=0.043)。
分かれ目が重要だ。NAD+の低下は抗がん剤を投与したすべての群ではなく、実際に筋量が減った群だけで現れた。薬剤そのものより、筋量減少という状態と一緒に動いたということだ。
リフターに残る部分は何か?
著者らはここで止めず、公開済みのげっ歯類悪液質データセットとヒトの不活動研究を合わせて解析した。向きは一貫していた。筋量減少が進むモデルでは筋のNrk2が早期に、一貫して下がり、悪液質を狙った介入とヒトのレジスタンストレーニングでは逆に上がった。つまりこの酵素は筋量の変化を後追いする指標というより、一緒に動く指標に近い。
だからこの論文からリフターが持ち帰る文は「サプリを飲むべきだ」ではない。トレーニングがこの経路を上げる側であり、トレーニングが止まった期間は筋量だけでなくその下の代謝装置まで一緒に下がる、ということだ。ケガや出張で2~3週間空いたときに筋力指数が停滞ではなく下落として記録される区間は、たいていここに当たる。休養日を何日に置くかと指導が外れたとき何から崩れるかは、その意味で同じ問題の二つの顔だ。
この実験の本体は健康なマウスに抗がん剤を投与したモデルで、ヒトに当たる部分は既存データセットの再解析である。NAD+前駆体サプリメントの効果を試した研究ではなく、この結果だけでサプリの必要性を判断することはできない。
よくある質問
この研究はNAD+サプリメントが効くという意味か?
違う。この研究は抗がん剤が組織のNAD+代謝を乱すかを確認したもので、NAD+前駆体の補給効果は試験していない。
Nrk2とは何か?
NAD+をつくる生合成酵素の一つだ。この研究では筋量減少が進むすべての抗がん剤モデルで84~93%減少し、筋量の変化に最も敏感に反応した指標だった。
レジスタンストレーニングとNAD+経路の関係は?
複数のデータセットを合わせた解析で、ヒトの不活動は筋のNrk2発現を下げ、レジスタンストレーニングは上げた。筋量が増える方向と同じ向きに動いたということだ。
筋のNAD+はどれだけ下がったのか?
萎縮した筋でシスプラチン2週投与時に14%減少(p=0.047)、folfiri 5週投与時に18%減少(p=0.069)だった。萎縮のなかった群では維持された。
ヒトにそのまま当てはめられるか?
そのままではない。本実験はマウスモデルで、ヒトに当たる部分は既存研究データの再解析である。方向を参考にする根拠であって結論ではない。
出典: PubMed