銅を調整する薬が、肥大型心筋症の心臓質量を実際に減らした
要点
肥大型心筋症の患者154人を対象とした第2相無作為化プラセボ対照試験で、銅代謝を調整する薬トリエンチンを1日2回400mg、52週間服用した群は体表面積補正左室質量が4.4g/m²減少し、プラセボ群の1.5g/m²より3.2g/m²多く減った(95%CI -5.6~-0.8、P=0.009)。ベースラインの左室質量が大きいほど効果が大きく、この減少は線維化ではなく心筋細胞質量の減少を介していた。有害事象の頻度は両群で同程度だった。
肥大型心筋症(HCM)は心筋が厚くなる疾患で、若い人に高強度トレーニングの制限がかかる最も多い心臓側の理由の一つだ。これまでの薬は症状と左室流出路の圧較差を扱ってきたが、厚くなった壁そのものを戻す方向ではなかった。今回の第2相試験(TEMPEST)が狙ったのはその点である。
対象は左室壁厚15mm以上、NYHA機能分類I~IIIの成人154人。平均年齢53.4歳、最大壁厚の中央値20.0mm、61.7%が症状のほとんどないNYHA I度だった。トリエンチン400mgを1日2回、52週間服用するかプラセボを受け、主要評価項目は心臓MRIで測った体表面積補正左室質量の変化だった。
どれだけ減ったのか?
トリエンチン群-4.4±7.7g/m²、プラセボ群-1.5±6.1g/m²。群間差は-3.2g/m²(95%CI -5.6~-0.8、P=0.009)だった。さらにベースラインの左室質量が大きいほど薬の効果が大きかった(交互作用P=0.015)。より厚い心臓ほど52週間で戻った幅が大きかったということだ。
何が減ったのかがより重要だ
媒介分析では、この減少は心筋細胞質量の減少を介して生じていた(平均因果媒介効果-3.9g/m²、95%CI -6.8~-0.9)。数値だけが下がったのではなく、厚くなった筋そのものが減った。同じ左室質量でも細胞が大きくなった状態と間質が増えた状態は別だという話は左室質量が増えても心筋細胞が大きくなったとは限らないで扱った。
なぜ銅なのか?
心筋細胞の銅Iイオンが枯渇するとミトコンドリア機能が損なわれ、この状態が左室肥大と関連する。逆に結合していない、あるいは緩く結合した銅IIイオンは線維化経路を活性化する。トリエンチンは銅Iの細胞内輸送と利用可能性を改善しつつ銅IIをキレートする。銅を足したり抜いたりする薬ではなく、どの形でどこに置くかを変える薬だ。
この結果は銅のサプリメントとは無関係だ。トリエンチンは処方キレート剤であり、試験対象は肥大型心筋症の患者だった。健康な人が銅を多く摂って心臓質量が改善するという根拠はここにはない。
いまのトレーニングで変わることはあるか?
ない。第2相であり、主要評価項目は症状や死亡ではなく画像指標だ。質量3.2g/m²の差が実際に心不全や不整脈を減らすかは第3相が答える問題である。ただしHCMの診断でトレーニングが制限されている人にとって、厚くなった壁そのものを減らす方向の薬がプラセボに勝った初めての結果だという点は違う。トレーニングの調整については肥大型心筋症と運動を見てほしい。
よくある質問
トリエンチンは肥大型心筋症で何を減らしたのか?
52週間の服用後、体表面積補正左室質量がプラセボより3.2g/m²多く減少した(95%CI -5.6~-0.8、P=0.009)。トリエンチン群は-4.4g/m²、プラセボ群は-1.5g/m²で、この減少は線維化ではなく心筋細胞質量の減少を介していた。
銅のサプリメントを飲めば心肥大は減るのか?
いいえ。トリエンチンは銅Iイオンの細胞内輸送を改善し、結合していない銅IIイオンをキレートする処方薬であり、銅を追加供給するサプリメントとは作用の方向が違う。健康な人の銅摂取を増やして心臓質量が改善するという根拠はこの試験にはない。
試験に参加した患者はどんな状態だったのか?
左室壁厚15mm以上、NYHA機能分類I~IIIの成人154人だった。平均年齢53.4歳、最大壁厚の中央値は20.0mmで、61.7%が症状のほとんどないNYHA I度だった。
効果が大きい人はいたのか?
いた。ベースラインの左室質量係数が高いほどトリエンチンの効果が大きかった(交互作用P=0.015)。より厚い心臓から始めた人ほど52週間で減った幅が大きかった。
安全性はどうだったのか?
有害事象の発生率はトリエンチン群とプラセボ群で同程度だった。ただし第2相試験で観察期間は52週間であり、長期安全性と実際の臨床イベント減少はまだ確認されていない。
出典: PubMed