GLP-1薬で安静時心拍数が3.2拍上がり、HRVが6.2ms下がる
要点
平均42歳の活動的な成人66人をGLP-1使用中に12週間追跡した研究で、体重が減り、安静時心拍数が平均3.2拍/分増加し、心拍変動(HRV)が平均6.2ミリ秒低下した。HRVの低下は4週の時点で統計的に有意だった。食欲抑制が中心的な機序であるため、トレーニングする人はスポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)のリスクにさらされ、この薬の使用者にはビタミンDとB12の不足がよくみられる。
GLP-1系の薬のよくある副作用は広く知られている。吐き気、疲労、消化不良、胸やけ。ところがトレーニングする人たちの間で別種の報告が積み上がっている — 体重は落ちるのにパフォーマンス指標も一緒に下がるというものだ。
これは直感に反する。最大酸素摂取量(VO2max)はml/kgで計算されるため、体重が減れば算術的にだけ考えても上がるはずだ。ところが逆に動く例が報告されている。
12週間の追跡で何が出たか
ウェアラブルのデータを扱う研究者が活動的な成人66人(平均42歳)をGLP-1使用中に12週間追跡し、米国生理学会誌に発表した。3つのことが同時に起きた。
- 体重の減少 — これは薬がする仕事だ。
- 安静時心拍数の上昇 — 平均3.2拍/分
- 心拍変動(HRV)の低下 — 平均6.2ミリ秒
数字だけ見れば小さく見えるが、トレーニングする人にとってはそうではない。研究者の表現を借りれば、この程度の変化は激しいトレーニングを2週間休んだあとに見る移動に近い。HRVの低下は4週の時点ですでに統計的に有意だった。
研究が指摘する機序は回復の側にある。GLP-1を使用している間は心拍数が回復期に本来のようには下がりきらない。
なぜこうなるのか
薬そのものより食べられないことが大きな部分を占める。GLP-1は2つのダイヤルを同時に回す — 空腹という背景音を下げ、満腹感を上げる。脂肪減少にはそれが機序のすべてだ。トレーニングする人にはそれが静かな問題になる。
あるスポーツ栄養士がクライアントで見たパターンはこうだ。睡眠の崩壊、いらだちの増加、ブレインフォグ、そして普段のトレーニング量に対する主観的負担の上昇。彼はこれを低エネルギー可用性の黄色から赤の警告と読んだ。そしてこれらの症状は、栄養が適切に入るようになると解消した。
ここから出てくるリスクがRED-S(スポーツにおける相対的エネルギー不足)だ。運動による消費が摂取を継続的に上回ると、体は自分自身から借り始め、その負債が静かに積み上がってけが、骨量の減少、ホルモンの崩れとして現れる。そこまで行かなくても、わずかなカロリー不足だけで出力・回復・集中力に先に表れる。
この記事は薬を使うなという話ではない。GLP-1は処方薬であり、使用の可否と用量は医療者が決める。ここで扱っているのは、すでに処方を受けて使用している人がトレーニングを併行する際に何を見ておくべきかだ。ある栄養士は、GLP-1を使う人は登録栄養士と一緒に取り組むことが必須であるべきだとまで述べている。
トレーニングを併行するなら何をするか
- 時間割どおりに食べる — 空腹のサインが信頼できないので、3食と間食1回を決まった時間に。トレーニング日は運動前の燃料と直後の補給が交渉の余地なしだ。
- 炭水化物とタンパク質を3:1で — 持久系なら炭水化物およそ90gにタンパク質30g。ご飯1〜1.5杯に豆類、野菜、タンパク質をのせた丼ひとつがその程度だ。
- ビタミンDとB12を先に確認する — GLP-1使用者にはこの2つの不足がよくみられ、どちらもエネルギー・気分・回復に関わる。プログラムを変える前にこちらから見る。
- ウェアラブルの数値を見る — 栄養不足がパフォーマンスの問題に移る時点を、体より先にデータが教えてくれる。
- 薬と戦わない — 体が止まれと言っているときに押し通さない。
重要なのは目標の設定だ。研究者の言葉どおり、目標は単なる体重減少ではなく、骨格筋を保ちながら脂肪を最大限落とし、十分な栄養とトレーニングを維持することであるべきだ。
筋力スコアとの関係
ここに体重補正スコア特有の罠がある。相対筋力スコアは体重で補正されるため、体重が減れば記録が変わらなくてもスコアは上がる。GLP-1使用中にスコアが上がるのをトレーニングが順調な証拠と読みやすいが、上のデータに従えばその時期に筋肉と回復は逆方向へ動いている可能性がある。
だからこの期間はスコアだけを見てはいけない。ビッグ3の絶対記録を併せて見る必要がある。体重が落ちながらスクワット・ベンチプレス・デッドリフトが維持または向上しているなら、脂肪を落として筋肉を守れている。記録も一緒に下がっているならカロリーかタンパク質が足りていない。同じ罠を別の角度から扱った記事がカロリー密度ダイエットにある。
最後に正直に残しておく点がある。上の研究は12週間のものだ。6か月以上使い続けたときにこれらの指標が安定するのか、HRVが新しいベースラインを見つけるのかはまだ誰も答えを知らない。
よくある質問
GLP-1薬は運動パフォーマンスに影響するか?
活動的な成人66人を12週間追跡した研究で、体重の減少とともに安静時心拍数が平均3.2拍/分上昇し、心拍変動が平均6.2ミリ秒低下した。HRVの低下は4週の時点で統計的に有意だった。
体重が減ればVO2maxは上がるのではないか?
算術的にはそうだ。VO2maxはml/kgなので体重が減れば値は上がるはずだが、GLP-1使用中は逆に下がる例が報告されている。回復期に心拍数が下がりきらない現象も併せて観察された。
なぜパフォーマンスが落ちるのか?
薬が食欲を抑えて摂取が減ることが大きな部分を占める。運動による消費が摂取を継続的に上回るとスポーツにおける相対的エネルギー不足のリスクが生じ、その前段階でも出力・回復・集中力が先に落ちる。
GLP-1を使いながらトレーニングするにはどう食べるか?
空腹のサインが信頼できないので、3食と間食1回を決まった時間に摂り、トレーニング日は運動前後の補給を欠かさない。持久系なら炭水化物とタンパク質を3:1(およそ90g対30g)にするのが出発点だ。
どの栄養素が不足しやすいか?
ビタミンDとB12の不足がGLP-1使用者によくみられ、どちらもエネルギー、気分、回復に関わる。エネルギーが落ちて出力が努力に見合わないなら、プログラムを変える前にこの2つを確認するとよい。