研究

抗がん剤治療中に生物学的老化が加速し、筋力トレーニング群だけその加速が止まった

要点

ステージII〜IIIの大腸がん患者を通常ケアと筋力トレーニングに無作為割付したFORCE試験で、術後補助化学療法の6か月間にDunedinPACE老化加速が0.70 SD(95% CI 0.41〜0.98)、GrimAge加速が0.29 SD(95% CI 0.13〜0.46、約1.2年に相当)増加した。通常ケア群はGrimAge加速が0.45 SD(95% CI 0.24〜0.60)と有意に上昇したが、筋力トレーニング群では有意な加速がなかった。ただし老化時計の変化は体組成や身体機能の変化と強く連動していなかった。

筋力トレーニングが体に良いという主張は、たいてい筋量や筋力といった目に見える指標で証明される。この研究が見たのは別の層だ — DNAメチル化から測る生物学的年齢が抗がん剤治療中にどれだけ速く進み、筋力トレーニングがその速度を落とすのか。

対象はステージII〜IIIの大腸がん患者で、設計はFORCE無作為化試験である。参加者は術後補助化学療法を受けるあいだ通常ケア群または筋力トレーニング群に割り付けられた。血液のDNAメチル化をベースラインと追跡時点で測定し、DNAmPhenoAge、GrimAge、DunedinPACEなど複数の老化時計を算出、体組成と身体機能も並行して追跡している。

老化時計は何を測るのか

暦年齢は誰にも同じ速さで流れる。エピジェネティック時計はDNAメチル化パターンから推定した生物学的年齢であり、同じ40歳でも体がどれだけ古びているかを別々に語る。DunedinPACEは老化が進む速度を、GrimAgeは死亡リスクに結びついた累積的な老化を測る。両者は同じものを測っておらず、この研究でも別々に動いた。

治療6か月でどれだけ老化が進んだか

最も大きく動いたのはDunedinPACE加速で6か月あたり0.70 SD(95% CI 0.41〜0.98)だった。次いでGrimAge加速が6か月あたり0.29 SD(95% CI 0.13〜0.46)で、著者らはこれを約1.2年に相当すると換算している。半年の治療期間で、体は1年以上老けた計算になる。

ベースラインにも信号があった。DunedinPACE加速が高いほど体脂肪が多く身体機能が低かった。老化速度の速さと、すでに弱った体とが一緒に動いているということだ。

筋力トレーニング群では加速が止まった

中心的な結果は両群を分けたときに現れる。通常ケア群はGrimAge加速が6か月あたり0.45 SD(95% CI 0.24〜0.60)と有意に増加した。一方筋力トレーニング群では有意な加速が認められなかった

ここは正確に読む必要がある。筋力トレーニングが老化を巻き戻したのではなく、治療が押し上げる加速を抑え込んだのだ。著者らが使う語も減少ではなく減弱(attenuate)である。

体組成や筋力検査では見えなかった変化

最も興味深いのは否定形の所見だ。老化加速の変化は体組成の変化や身体機能の変化と強く関連していなかった。著者らの解釈はこうだ — DNAメチル化に基づく老化指標が、体組成や機能検査では捉えきれない治療期間の生理的変化を拾っている

つまり体重は変わらず筋力検査も同じに読めるのに、内側では時計が別の速さで回っていることがありうる。重量と回数だけを見る記録の仕方が届かない層がもうひとつある、という話だ。

対象は術後補助化学療法を受けるステージII〜IIIの大腸がん患者であり、健康なリフターを対象とした研究ではない。エピジェネティック時計は個人の予後を判定する臨床ツールではなく研究用の指標であり、時計どうしで結果が分かれることもこの研究自体が示している。がん治療中の運動の可否と強度は必ず担当医療者と決めてほしい。治療期と回復期の運動全般はがん治療と回復期の運動にまとめてある。

リフターが持ち帰るもの

健康な人への示唆は条件付きだが方向ははっきりしている。体に大きなストレスがかかる区間で、筋力トレーニングは失う速度を落とす方向に働く。抗がん剤治療は極端な例だが、大きな減量期、手術からの回復期、過労の期間も程度が違うだけで同じ範疇だ。そうした区間でのトレーニングの目標は記録更新ではなく、加速を抑え込むことである。

記録の面でもうひとつ。この研究では体組成と身体機能が内側で起きた変化を反映しなかった。体重と見た目が変わらないという事実は何も保証しないということだ。ビッグ3の1RMから算出するマッスルインデックスも万能ではないが、少なくとも同じ条件で繰り返し測れる数字である — 苦しい区間を通るとき、保てているのか落ちているのかを見る基準線としては体重計より優れている。減量期に筋力トレーニングがどれだけ筋喪失を防ぐかは極端な減量期の筋力トレーニングに、年齢に応じた調整は50歳以降も強く鍛えるにある。

よくある質問

抗がん剤治療を受けると生物学的老化は速まるのか?

この試験では速まった。ステージII〜IIIの大腸がん患者において6か月間でDunedinPACE老化加速が0.70 SD(95% CI 0.41〜0.98)、GrimAge加速が0.29 SD(95% CI 0.13〜0.46)増加し、著者らはGrimAgeの増加幅を約1.2年に相当すると換算している。

筋力トレーニングはその老化加速を止めたのか?

完全に止めたのではなく減弱させた。通常ケア群はGrimAge加速が6か月あたり0.45 SD(95% CI 0.24〜0.60)と有意に増加した一方、筋力トレーニング群では有意な加速が認められなかった。著者らは巻き戻しではなく減弱と表現している。

DunedinPACEとGrimAgeは何が違うのか?

どちらもDNAメチル化から算出する老化指標だが測る対象が異なる。DunedinPACEは老化が進む速度を、GrimAgeは死亡リスクに結びついた累積的な老化を反映する。この研究でも両指標は別々の動きを見せた。

体重や筋力検査でこの変化を確認できるか?

できなかった。この研究では老化加速の変化が体組成の変化や身体機能の変化と強く関連していなかった。著者らはDNAメチル化指標が体組成や機能検査では捉えきれない生理的変化を拾っていると解釈している。

健康な人にもこの結果を適用できるか?

直接は難しい。対象は術後補助化学療法を受ける大腸がん患者であり、エピジェネティック時計は個人の予後を判定する臨床ツールではなく研究用の指標である。がん治療中の運動は担当医療者と決める必要がある。

出典: PubMed

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